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葬儀屋社長奮戦記

2011年10月22日 土曜日

7・仕事が来た!

7・仕事が来た!
また今日もいつもの一日が始まろうとしていた。
弟は石屋の給料日ということで嬉々として仕事に出かけていった。
僕と社長はおもむろにテレビの前に腰掛けて腕を組み長い一日が始まろうというその時、突然会社の電話が鳴った。
二人は聞こえない振りをしてどちらかが取るのを待った。
かかってくる電話は支払いの催促に決まっていたからだ。電話のコールは続く。しつこい電話だな・・・と、そこへ奥さんが2階から降りて来て、しょうがないねーみたいな感じで受話器を取った。
「はい・は・ハイ、おります。お待ちください。いま代わります。」「あんた、電話。」
「なんだ?!俺か!」なかなか電話に出ようとしない。
「村木さんのおばあちゃんが亡くなったんだって。」「あ!」僕と社長は飛び上がった。
「かせ!」社長は奥さんからひったくるように受話器を取った。
しばらく話した後受話器を置くと、社長は感極まったように天井をにらむと、カッと眼を見開いていった。
「仕事だ!弟を呼び戻せ!」海賊船の船長が碇を上げろ!と叫んでるみたいなのりだった。
僕も早速電話した。もちろんホットラインだ。
「社長済みませんが、弟を会社に戻してください。仕事が入ったもんで。」
仕事が入ったなんて普通だぜみたいに話したつもりだったが僕もチョッと興奮していた。
社長が再び叫んだ。「仕事だ!仕事!」
まあ,何と言っても初めての仕事だ。3月に開店しもう季節は秋、十月になっていた。
僕たちは集合した。
弟も地下足袋姿で駆けつけてきた。
二人で社長を見つめる。
社長が言った。「これから俺が打ち合わせに行ってくるから、お前たちは支度をして待ってろ。」
「・・・・・・・・」僕と弟は顔を見合わせた。
弟が口を開いた。「社、社長僕ら何をどう準備していいか分かりません。」僕らは社長の次の一言を待った。次の一言は衝撃的だった。
「俺だってそんなモン、わかんねーよ」「ン???」何言ってるの?この人。今何て言ったの?
「社、社長、僕らだって何をどうすればいいか分かりませんよ!」再び弟が叫んだ。
「社長、だって社長が指示してくれなければ、経験はあるんでしょう?」僕も尋ねた。
「んなもんねーよ。やりゃーなんとかなるべ。とりあへず行ってくるわ。」社長はいとも気楽にこう言い放つとボー然と立ち尽くす僕らを尻目にさっさと受注に出かけてしまった。
残された僕と弟・・・・・・・・「お、お兄さん」弟が途方にくれたように僕を見る。
僕もまさか葬儀屋をやるからには何らかの経験もしくはノウハウなりを持っているモンばかりと思ってたんだからのんきなものだった。
甘いぞ!・甘すぎるぞ・・・お前たち・・・・どこからか天の声が聞こえてきそうだった。
やがて我に返った僕らはとにかく、葬式の経験についてお互いの知識を検証し始めた。
実際に何か役に立つことがあるかもしれないからだった。
弟は昔おじいさんの葬式に立ち会ったことがあるといった。
それも幼稚園のころ・・・そこで分かったことは、お経が長くて弟は我慢できずに小便を漏らしてしまったということだ。
「駄目だ、お前の情報は役に立たん。」僕が切り捨てると弟はむっとしたのか僕に聞き返した。
「じゃ、お兄さんは何か経験があるんですか?」「あるさ、うちのほうは葬儀屋なんていなくっても葬式出来るんだ。隣組でほとんど用が済んじまうんだ。」「そうなんですかー、じゃ一通りの事は分かるんですね。安心しました。」
「まあ、分かるって言えば分かるんだけど。自分の担当はいつも氷屋にドライアイスを買いにいく係りだったからドライアイスを10キロかって4つに切ってもらうことだけは分かるんだけど・・・・・・・・」
「それだけですか?」弟は泣きそうになった。
(僕もあんまり人のことは言えた義理ではなかった。)
「でも、社長もあんまりですよね、あれだけ僕らを煽っておいてこんな会社まで作っちゃって、ほんとにもう。」弟はやり切れないという感じでつぶやいた。
「おお、こっちだって奴が素人だなんて思いもしなかったよ!」僕らは社長の悪口を言って自分たちの事を弁護するのに終始していた。
そんなことを言ってる自分たちこそこの半年何をしていたんだ、という反省などはもちろんしない。
そんな不毛な時間の後、二人は一つの結論に達していた。
「投げちゃいましょうか。」弟が言った。
もちろん僕に異論のあるはずもなかった。
投げるというのは仕事をやって貰える人に代行委託するということだ。
二人には、ある心当たりがあった。
二人には何ヶ月か前、例の祭壇を売りつけたメーカーの担当者にあるお願いをしたことがあったのだ。
それは自分たちは素人なので是非専門の業者さんを紹介してください、ということだった。
何も知らない素人相手においしい仕事をした引け目かその担当者は隣の隣の町の葬儀屋さんを紹介してくれたことがあったのだ。
もちろん隣の隣というのには訳がある。
つまり競合する地域の葬儀屋なんかに紹介などしようものなら、当然商売の為とはいえ、よけいな商売がたきをふやしおって!ということになりお前のとことはもう付き合わん!となるのがオチだからだ。
そのメーカーの担当者が紹介してくれた葬儀社はセレモニー天国の菊間社長だった。とても腰の低い社長で僕らの訪問を喜んでくれたのだった。
「お兄さんよかったですね、いい人を紹介してもらって。」「ああ、1500万も買ったんだ。ばちはアタラネーよ。」僕と担当者はあんまり仲良くはなかった。
目を離すとすぐ社長に祭壇を売り込もうとするから僕が牽制していたからだった。そんな経緯があって早速僕と弟はセレモニーの社長に連絡をとってみることにした。
「お兄さん、社長の電話分かります?」「おう、こんなこともあろうかと名刺を財布に入れてあるよ。」
たまたま入れっぱなしになっていたのだったが、少しは兄らしさを出そうと思ってそう言ったのだが。
「さすがーお兄さんですね。」単純な弟は感心している。
「トゥルルル・・・ハイ、セレモニー天国です。」
電話はすぐに通じた。「あのー以前お邪魔しました太陽葬祭の水野ですが。メーカーの柴田さんに紹介された。」
「ハイ、よく覚えてますよ、新しく始めた・・」「そう、そうです・・・、それで今日はお願いがあって電話したんですが。」
「はい?どのような?」
「実は、さっき仕事が入ったんですが」
「え?よかったですね。」社長は何のことか分からないらしい。
「それで、実は誰も仕事のやり方をしらないモンで、社長に今回受けていただけないかと」
「あ?そうなんですかぁ、もし私で力になれるならばご協力いたしますよ。」社長は快く言ってくれた。
「今社長が打ち合わせにいってるんで、帰ってきたらまた電話させていただきます。ほんとにありがとうございます。」僕と弟は電話口で頭を下げた。
(地獄で仏とはこのことだ。)僕と弟は顔を見合わせるとやっと人心地がついたのでフーっとため息をついた。
「お兄さん、これで、安心ですね、」弟は頬っぺたを真っ赤にして喜んでいる。
お昼近くになって社長が戻ってきた。
固唾を呑んで社長の第一声を待つ。
そこで出た社長の一声は「腹減った。出前でもとるべ。」だった。
「エ?」あっけにとられる僕らに続けて社長は言った。
「仕事が入ったんだ!しみったれてたんじゃいい仕事はできねーよ。」いきなりの強気発言。(職人かあんたは?なんて突っ込みたくなる。)
「出前はいいんですが、仕事を手伝ってもらったほうがいいと思って実は応援を頼んだんですが。」
僕が言うと、
「何?応援?」強気の社長の姿勢は崩れない。
「いやあ、僕ら初めてで、何かオチでもあると・・何しろ初めての仕事なんですから。念には念を入れてというか・・」僕は出来るだけ社長の機嫌を損ねないように言ってみた。
(何しろ今回は社長のとってきた仕事なんだから。)
しかし以外にも「そんなら、そうすベーか」あっさり社長も同意した。(本当は自信が無かったのかもしれなかった。)
とにかく当社開店第一号だ。さっそくセレモニー天国の社長に連絡を取って、日程に合わせてこちらに来て陣頭指揮をとってもらうことにした。
そんなこんなで一回目の仕事は無事終了した。
一回目の仕事が終わると僕と弟の心にある思いが湧いてきた。
それは勉強しなきゃってことだ。とにかく現場でのセレモニー天国の社長の仕事振りは見事の一言だった。
どんな質問にも的確に答え、メーカーから訳も分からず仕入れた祭壇や備品をてきぱきとトラックに積み込んで、喪家の部屋に立派な祭壇を飾りつけたときはほとんど感動ものだった。
「スゲー!」これが僕と弟の感想だった。
社長は鼻高々だ。(といってもうちの社長だけど。)
現場でセレモニーの社長は黒子に徹していたので、調子に乗ったうちの社長はセレモニーの社長を従業員のごとくあごで使ったりしていた。
僕らはひやひやして見ていたが、セレモニーの社長はいやな顔一つせずに淡々と仕事を遂行していった。
僕と弟はそんな社長の仕事振りと人柄に心底感激して、大ファンになってしまった。
仕事が終わって二人でしみじみ話したとき、僕らの結論は
「ぼくたちもあんな葬儀のプロになりてー!」だった。
それから二人は打ち合わせをして社長に電話した。
「もしもし、この間は本当にお世話になりました、ろくなお礼も出来ずに、お言葉に甘えてしまって。それでまたお願い事で恐縮なんですが、是非弟子入りさせていただきたいんですが、もちろんお金は要りません。仕事が入ったときにお手伝いさせていただきたいんです。仕事を覚えたいんです。」
戸惑いながらも社長は僕らの弟子入りを許してくれた。きっと忍びなかったんだと思う。


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