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葬儀屋社長奮戦記

2011年10月21日 金曜日

8・弟子入り修行

8・弟子入り修行
セレモニー天国の社長に惚れ込んだ僕ら二人は、社長を師匠として葬儀のイロハから、覚えていった。
仕事が入ると社長が連絡をくれる。僕と弟は早速社長の事務所に向かう。約1時間の行程だ。
社長自身、大手の葬儀社の部長までやった、生え抜きの叩き上げでその町の業者の誰もが一目おく葬儀の生き字引みたいな人だったのだ。
社長は大手の葬儀社を思うところあって退職し、独立してまだ数年しかたってなくて、よけい僕らに親近感を持ってくれたようだった。
花輪の出し方から、祭壇の組み立て方、お供物の種類、葬具の名前や使い方、それこそありとあらゆる事を教えてもらったといっても過言ではなかった。
社長に葬儀のイロハを教わりつつも会社の仕事はあれ以来ない。
当初計画していた、経営計画は挫折し、資金は底をつき年末には親に頼んで数百万円を用立ててもらいしのいでいた。
新年になっても仕事が無くかろうじてもともとの仏壇の売り上げが唯一の収入源だった。
社長は相変わらずテレビの前で一日過ごしていた。
けれど僕と弟は仕事を覚えることで毎日が充実していた。
でもセレモニーの方もそんなに仕事がある訳でもなく呼ばれていくのも月の内数日だった。
あとの日弟は相変わらず石屋に働きにいき、僕は社長と日がな一日テレビの前に座っていたのだ。
ただ、以前と違うことは仕事が来ればやれるっていう自信がついたことだった。
会社の決算は3月だ。決算書を会計士にもらって説明を受ける。
当然赤字決算だ。
最初の3000万円はすっかり無くなって親から後600万円借りてしのいでいたので普通で言えば万歳しなければならなかった。
そんな時国民金融公庫という銀行がお金を貸してくれると聞いて、相談会に行った
担当の人はいい人だった。「個人的には、とても同情しますし、お貸ししたいんですが、一円でも黒字になってれば、いいんですが・・・」どうも駄目そうだった。
そんなある日、会社にある銀行員が営業で新規開拓に飛び込みで尋ねてきた。
「ご融資させてください。」その若い営業は僕らに向かってそう言った。
(当然僕らは、お茶やコーヒーを出してもてなした)
僕は翌日その銀行を訪ねた。
若い営業はちょっとビックリしたようだったが、僕を受付に通すと上司に取り次いだ。
決算書も出来ていたので書類に不備は無い。
その営業から取り次がれた上司は僕の資料をしばらく見ていたが、やがてきっぱりと、こう言った。
「お貸しできません!」取り付く島も無いとはこのことだった。
「そんな、お宅の営業の方から借りてくれって・・・・」僕はねばった。(若い営業はどこかに隠れてしまっていた。)
「うちの営業がそう言ったかも知れませんが、書類を検討しなければ融資はできませんので、」
「でも、資金繰りに困ってこうしてたずねてきているんです。銀行はこうした企業に融資して企業の育成を図るべきものなんじゃないですか?」僕も少し経営者っぽく意見など言ってみた。
すると、その上司は驚くべき一言を吐いた。(あとで、いろんな人に話しても誰も信じてくれなかったが、この一言だけはほんとだった。)
「でも、御社の場合、この融資が、カンフル剤になるより安楽死になってしまいますから。」
その上司は顔色も変えずに言った。
内心僕は面白すぎるぜこのヤロー、とその銀縁めがねに突っ込みを入れたかったが、とてもそんな雰囲気ではなかった。
せめて心の中で「オメーのとこには、金輪際貯金してやんねーよ」と悪態つくのが関の山だった。
(でも、むこうからも金輪際来てくれるななんてオーラが出てたのであきらかにこちらの負けだった。)
資金繰りに詰まった僕はとりあえず、月末の手形の50万円の決済が出来ないことを悩んでいた。
だめもとで社長に相談した。
「社長、仕入れの手形が不渡りになりそうなんですけど・・・・」「いくら?」「50万です。」
「カッチャンのとこけ?」(なんか社長は変な訛りがあるのだった。)
「よくわかんないけど、いつも仏壇持ってきてくれる。」
「おお、なら、ジャンプしてもらえ。」「ジャンプ?」(少年ジャンプ?ッてわけ無いか。)
「1ヶ月延ばしてもらうんだべ、支払いを」「そんなことできるんですか?・・・」社長は、なにげなく受話器を取り上げると仕入先に電話した。
「あ、カッちゃん、Kだけど、悪いんだけどサー、うちの手形ジャンプしといてくれる?うん、来月には入金しとくから・・うん、悪いね、いつも」
そういって、社長は受話器を置くとまた、何事も無かったかのように、テレビを見始めた。
テレビからは笑点のテーマソングが流れていた。
チャンチャカ、スチャラカ、スッテンッテン。チャンチャカ、スチャラカ、スッテンッテン。
社長は嬉しそうに目を細めてテレビに見入っていた。
とにかく不渡りの危機は1ヶ月先延ばしになった。
それでも僕もなんとなく安心した。けれど、お金は無いままだ。
無い袖は振れない、という諺をつぶやいた僕に突然ある考えが閃いた。
つまり、支払いを出来るだけ先延ばしにする方法だ。
今までは支払いはあるだけ即金で支払ってきた。けれど、支払いをぎりぎりまで延ばす戦法だ。
仕事は現金で徴収して(葬儀や仏壇は当然現金で集金できた。)仕入れの支払いを延ばす。
当時のうちを知っている業者は、苦々しくこう言うだろう。
「あの会社から金を集金できたら一人前だ。」
やりすぎると仕入れも出来なくなる危険なやり方だが、このやり方しかなかったのだ。
このおかげで金を返さない人や取立ての心理が手に取るように分かるようになった。
まず「入金が無いんですけど、」と期日が過ぎると何社かが言ってくる。そうしたら、まず明るくはきはきと「すみません、明日すぐ入金します。」と言わなければならない。
集金の催促はする方も気が重いのだ。
そこで、はっきりと明るく、そして明日、この3拍子そろった答えを聞いて満足しない人は無いだろう。
借金慣れしていない人ほどおどおどして、返せないのを察知されてしまい不信感を抱かせるのだ。
文書でくる入金がございませんでしたにも、かならず入れ違いにご入金のせつはお詫びいたします、なんて書いているぐらいだ。(もっともお金を払わずにいると、その後には督促状といって人間性のかけらも感じられない極めて冷酷無比な書類が送られてきてしまうのだが・・・・・)
明日払いますと言われ、本当に次の日入金を確認して「まだ入金されてませんけど・・」なんていってくるのは、サラ金か自分も飛びそうな人間だけだ。
たいていは2・3日様子を見る。そしておもむろにまた電話してくる。(つまり、格好をつけるのだ。)
「先日、ご入金とのご返事でしたが、まだ入金がなされてないようですが・・」なんて当たり障りの無い電話のしかたをしてくるのは、悪いけど3ヶ月は楽勝で延ばしていた。
「お前のせいで不渡りだ!バカヤロー!」なんて1万円ぐらいで言ってくるのは本当にそうなりそうな奴なので何としても払ってやらないと一家心中なんてして遺書にうちの名前を書いてしまうので最優先だ。
一回社長が何気なくとってしまった業界紙を2年ほど、ほったらかしに来るに任せていたら、ついに取立てのプロが新宿からやってきた。
十数万円の取立てだったけれど、ようやく2度は帰したけどさすがに3度目はなかった。
ドラマでしか見たことが無かった「ガキの使いじゃネエーんだ!」というセリフがそいつの口から出たのでさすがに僕らもゲームセットだった。
やっぱりプロに3回目はないということも一つの目安だった。
けれど、少しずつだが仕事も入り始め、このはた迷惑な戦法で超低空飛行を続けていたある日不思議な出来事があった。
ある家の葬儀の依頼を受け祭壇の設営・飾りつけも終わりあとは通夜の開式までの時間を弟といつもの金策会話で過ごしているときのことだ。
「お兄さん、月末の手形落ちますか?30万」「いやオチネーな、」「この現場終わればお金は入るのに、間に合いませんねー」「そうだなー・明日までに何とかしなきゃナ」「どこに借りにいくか?」もう親戚は借り尽くしていた。そんな会話をしていると、突然その家の施主が出てきた。
おんぼろの家で当時30万円葬儀の太陽葬祭なんて売り出していたので、少しずつ安い仕事が入ってき始めたとこだったのだ。
その施主は「おい、あんたら親切に色々やってくれてるんで、身内のモンも皆喜んでいる。ついては俺としちゃ、もう金を少しばかり用意しちまってるんだ。持っててなくなってもなんだし、とりあえず先払いしておこうと思うんだが。30万ここにある、不足は葬式終わって払うから、とりあへずとといてくれ。」「???」僕と弟は何がなんだか分からなかったが、こんな渡りに船の話断る訳も無くありがたく受け取った。
施主が行ってしまうと、「お兄さん、奇跡が起きましたね。」弟が言った。
「ああ・・・・不思議なこともあるもんだな」僕も半信半疑だ。「これで、手形落ちますね。」
「おお、銀行間に合うかな?ちょっといってくる。」僕は銀行に走った。
葬式の後、その家はおばあさんが亡くなって今は誰も住んでいなかった。
けれど仕事の行きかえりの通り沿いなのでいつも車で通りかかると、あの親切な施主のことを思い出しては感謝していた。
と、その時、はっと気がついた。初めてあのからくりが分かったのだ。
つまり僕と弟が借金や手形のことを話していた場所は、幕を張っていたのでそのときは気がつかなかったが今、改めて見ると弟と座っていた場所の後ろがすぐその家の居間だったのだ。
それも窓際に腰掛けて話していたのだったから僕らの会話は全てあの家族や親戚に筒抜けだったのだ。
そのことが分かった瞬間恥ずかしさで一杯になったが、それと同時にさも自分から言い出したようにお金を渡してくれたあのおじさんに心底、感謝の気持ちが湧いてきた。
こんな風に人の恩を受けながらも仕入先に迷惑をかけ続けて会社は2年目に入っていった。


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