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葬儀屋社長奮戦記

2011年10月20日 木曜日

9・そして平穏な日々

9・そして平穏な日々
2年目に入るとそれでも少しづつ仕事が入り始めた。と言っても月に1件のペースだが・・・・
弟は相変わらず地下足袋を履き石屋にバイトに行く。
「お兄さん、今度石積みさせてもらえることになったんです。」弟は葬儀屋というより石屋になりつつあった。顔は日に焼け、筋肉もつき大柄な体が一段と逞しくなってきた。
僕と社長は相変わらず日がな一日、腕組みをして事務所に座っているので、青白いかといえば青白いのは僕だけで社長は当時50代後半で色は浅黒く生き死にの大病から生還したとのことで体重は50キロそこそこだったが、ものすごくバイタリティーに溢れていた。髪はいつもポマードできっちり決め、いつもピカピカの靴を履いていた。
口癖は「俺が今根回ししてるから、それが動き出したらものすごいことになるから。」と言うものだった。僕も弟もそのものすごいことって何だ?というのが最大の疑問だった。
でもある日ものすごいことの一つが僕らを直撃した。
久しぶりの仕事を終えて、会社には寄らずに直接自宅の納屋に荷物を片付けに向かっていると突然僕の携帯が鳴った。
「はい、水野ですが。」「こちら、○○銀行ですが、御社振り出しの手形が本日回ってまいりましたが、残高不足で、このままでは不渡りになってしまいますので至急ご入金ください。裏のドアからお入りください。手形は60万です。後30分以内にお越しください。」
「ちょっと待ってください。手形は振り出してませんが。」「いや、そんなこと無いです!ただお宅の社長に電話をしても通じないんですよ!とにかく大至急お願いします!」
ガチャン!!電話は切れた。
僕は何がなんだか分からなかったが、とにかく金が60万円要るということ。不渡りまで後30分ということ。それだけしか分からなかった。
今経理は自分が握っているので手形のことも把握してるはずだったのだ。
今悩んでもしょうがないで、ちょうど仕事を終えたばかりだったので、葬儀代こそ集金してなかったのだが供物代の集金が20万はあったのであと口座に30万円は入っているはずだった。
とにかくトラックをUターンさせると銀行に向かった。
銀行のシャッターは下りていたがいわれた通り裏のドアからインターフォンで来たことを告げると、鍵が開いて中に招き入れられた。
一歩中に入ると一斉に行員が僕の方を見た。こいつのために閉められないんだみたいな視線だった。
こっちも何で閉店後にこんなに居るんだって感じだったが、実際はどうもすみませーんみたいな感じで中に入っていったのだが。するとそこには仁王立ちしている担当者がいた。
「ホント困りますね。連絡も取れずにこんな時間まで、もうちょっとで不渡りですよ!」担当者は興奮していた。
「今ここに25万ほどあります。あと30万ほど普通口座にあるはずです。」「分かってます、後5万円足りませんね。お宅持ってます?」「あると思いますけど」「すぐおろしてください」まるで命令調だ。
僕はキャッシュコーナーに案内され自分の口座から5万円をおろした。
残高は数百円だ。(けつの毛まで抜かれるって言うのはこんなことかな?などと思うと昔の人はうまいこと言うなとちょっと感心した。)僕がお金を差し出すと同時にひったくるように受け取ると、そいつは数え始めた。
ひぃ・ふぅ・みぃ見たいな感じで数えている。銀行員の癖に扇子みたいに開いて数えるのかと思ったのでちょっと拍子抜けした気分だった。(こいつ素人だな。)
かぞえ終わるとそいつは言った。「1万多いです。」合計で61万円あったのだ。
1万円を返された僕はなんとなく得した気分だった。
「それじゃ、入金伝票かいてください60万円」
入金伝票を書き終わるとそいつは「気をつけてくださいよ、今後こんなことの無いように!」と言い捨てるとカウンターの中に入っていった。
「あのー手形は?」僕が尋ねるとそいつは忌々しそうに「これです。」といって一枚の手形を僕に見せてくれた。
確かに社長の名前が書いてあったが、社印が押してなく社長の個人名の手形だった。
社長の名前が書いてある以上こいつと話してこれ以上ややこしくなるよりとにかく社長から話を聞くことが先決だと思いその場は聞き耳を立てている行員たちにわざと聞こえるように「どうもすみませんでした。」といって又裏口から外に出た。
とにかく社長を捕まえなきゃ、僕はとりあえず会社に戻った。
会社の入り口を入ると、そこには何と社長が普段と同じにテレビの前に座っているではないか。
「社、社長!店に居たんですか?今銀行にいってきましたよ。どういうことなんですか?60万の手形が回ってきましたよ」
「ああ、悪い、悪い、金が都合つかなっくってさー」
「払ってきましたよ、でもどういうことなんですか?手形なんてきってないはずなのに」
「まあ、俺が前に切ったのが回ってきたんだろう。」「前に?」
「そうだ、個人で仏壇屋をやってたときのやつ。」
「ほら、けんちゃんとか三好さんとかいるだろ?奴らに手形で金を借りたのよ。」
僕はけんちゃんも三好さんも知らなかったが、手形で金を借りたということは分かった。
「どういうことです?」
それは、ぞっとする話で今考えてもよくあのくらいで済んだと思うばかりだ。
つまり社長は個人の金貸しに60万円の手形を切って30万円借りたというのだった。(つまり30万円が利息ということ。)
そしてその手形には期日が入ってなかったのだ。
だから、そのけんちゃんや三好さんは自分が必要なとき、日付を入れて換金できるのだ。たまたま今回その一枚が回ってきたというのだった。
「一体何枚きったんですか?合計でいくらなんですか?」ぼくが矢継ぎ早に、問いただすと社長はサラッといった。
「何枚切ったかなんてよく覚えてねーよ、」「じゃとにかく手形帳返してくださいよ!」「終わったから捨てちゃったよう」僕が黙ったままいると責任は感じているらしく、「まあ、これからこんなことがあると困るから、俺社長降りてもいいけど、」
僕はあいた口が塞がらなかった。(いまさらふられても!)
しかし、これが紛れも無くうちの社長なのだ。こうしてわが社の平穏な日常は過ぎていった。


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